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今日の日記
2002年9月5日とある夏の日、ボクはホテルの一角で待ち合わせを
していた。夏の強い日差しがやけに気になる。遠
くの方に駆け足で近付いてくるオトコが見える。
「やれやれ」
ボクはふかしていたタバコをもみ消すと、その近付
いてくるオトコに向かって歩み出した。
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「すみません。電車を乗り過ごしてしまって。」
オトコはすまなさそうに謝った。このオトコの名前
は春日哲也。敏腕の代理人だ。が、その汗まみれの
顔立ち、丸い体型、その低姿勢が、それを全く感じ
させない。そこいらにいる気の良いおじちゃんにし
か見えない。
「いえいえ、お呼び出ししたのはボクですから。」
こう口にすると、ホテルの中に春日を促した。ホテ
ルの中はめったやたらに空調が効いていて、すぐに
汗が引いていく様が感じられた。
ボクと春日はそこのロビーにある一組のソファに腰
掛けた。春日は「ふ〜」と大きく息を吐き出すと、
すぐに分厚い書類を出し始めた。
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ボクがこの代理人とここに来た経緯はこうである。
ここDiary Noteでは一つのルールとして20000HIT
で一つの区切りを付けなくてはいけない。20000を
超えると、今度は書き手に主導権は無く、このサイ
トが腕が良いと認めた者だけに契約とした形で書き
続けることになるのだ。勿論、そこには金銭の問題
も発生する。要は20000以降は契約が成立すれば、
プロとして書くということになる。
この日記もおかげ様で20000に届き、こうしてプロ
として契約できるかの岐路にたったわけであり、今
日、この日に代理人と共にDiary Noteの代表と話を
しに来たという訳である。
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「では、最後の確認で・・・」
そう口を開いた春日の眼は先程とは違っていた。流
暢に契約の留意点、主張すべき所をこと細かく説明
する。その姿は何処から見ても一人の凄腕の代理人
だ。話を聞きながら、改めてプロの凄みを感じていた。
「・・・以上です。あとは私が主張するので。」
春日が書類から眼を離して、ボクに眼を向ける。強
い眼光だ。ボクは静かに頷くと、席を立った。
「時間ですね。行きましょうか。」
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約束したホテルの一室はとても見晴らしの良い所だ
った。外はこれでもかとばかり太陽が陽を射してい
る。少しばかり鼓動が早い。そっと春日の方に眼を
向けると、こちらの意を感じたかのように、静かに
頷いたくれた。
「ダイジョウブデスヨ。」
部屋には代表と思われる人と、その代理人が座って
いた。ボクたちが部屋に入ると、二人が立って出迎
えてくれた。
暫しの歓談。社会人な会話がボクの頭を行ったり来
たり。ボクにはそんな話を聞く余裕もなかった。
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一頻り世間話が終わると、急に厳かな雰囲気が部屋
を覆った。隣の春日は契約について前の二人と真剣
な目で話を進めている。ボクは時折来る質問に、打
ち合わせ通りの答えを返していた。外がやけに羨ま
しい。こんな雰囲気、どうも苦手だ。
「そちらの言い分は分かりました。」
向こうの代理人が口を開いた。
「私どもの主張はこの紙の通りです。」
そう言うと、代表は春日に一枚の封筒を手渡した。
これがよくサッカー選手とかである契約だ。この中
に向こうの提示する年数・額が書いてある。
春日はそっとボクの方に眼を移し、すぐに、そして
厳かにその封筒を開いた。
何かが窓の外でキラリと光る。その瞬間、ボクから
は春日の目が少し大きく開いたように見えた。
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春日はそっとその封筒をボクに渡した。ボクはそれ
を受け取ると、少し荒く中身を取り出した。
「¥0」
中にはこの一行だけが書かれていた。
0円回答。契約はしないという印。
春日が隣で口を開く。少し声が上擦っているようだ。
「理由は?」
相手側の代理人が事務的に言葉を並べる。
「私どもは若返りを現在計っています。それを考え
た時に、アナタは私どもの意向には合わない。」
「それに一時の更新頻度の低下。更には内容とテー
マのアンマッチング。質の低下。もちろん過去の
功労も考えましたが、それを考慮しても契約を続
けるまでの決め手にはなりませんでした。」
「が、しかし・・・」
隣の春日が尚も口を出そうとすると、今まで岩のよ
うに動かなかった代表がおもむろに口を開いた。
「これが我々の総意です。何人たりとも、これを覆すことはできない。」
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気付けばボク達はホテルの外に出ていた。
春日は「私の力不足で・・・」と再三謝っていた
が、ボクには別段ショックもなかった。
日記書けないことなど、別にどうでもいい。そんな
もの、また気が向けば自由に書けば良い。
そんなことより、そんな些細な事より、ボクは外に
出れたことが嬉しかった。何でもない屋外に。それ
だけで満足だった。
「色々ありがとうございました!」
ボクは陽を背にして、すまなそうにしている春日に
向かって一言言うと、振り向き歩き出した。
もう夕方だというのにやけに日差しが強いのが気になる。
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